見えない目で見るTV時評 1

 

●僕の運勢は一体……?!
 朝の番組の星占いコーナーが、重大な事態に立ち至っている。
この4月、日本の首都であるここ東京において、一つの番組の
終了と、もう一つの番組の裏切りともいえる変質が相次ぎ、僕
のような目の見えない人間が、確実に己れの運勢を知る道は、
ぷっつりと絶たれてしまったのである。

もちろん、CATVや衛星放送と契約して多チャンネル化して
いれば、話は別かもしれない。。また、うちは世田谷だけれど、
同じ東京でも地域によって、ろーかる局の入り具合が違うとい
うこともあるだろう。ただ、うちの視聴環境はけっして特殊な
ものではないはずだ。

 そんなわが家で、日々の星占いをチェックできる番組は、3
月まで3つあった。

 まずはフジの『めざましテレビ』。たぶん画面にはコーナー終
了までの「秒読み」が表示されていたりするのだろうが、耳で
聞いているだけだと、ランキングが1位から12位へという順
で紹介されていくので、「あれ、本当はカウントアップなんじゃ
ないの?」とつい違和感を覚えてしまうことでおなじみの、『今
日の占いカウントダウン』である。

 そもそも僕には、星占い(ほかの占いもそうだが)に細かく
順位をつける意味がわからない。恋愛運が2位か3位かでア
タックのしかたを微妙に変えたり、自分の運勢が天秤座よりい
いか悪いかで一喜一憂したりする人がいるんだろうか。それに、
占う人により順位がてんでバラバラなのはご存じの通り。今日
は自分の運勢がいいほうか悪いほうかがざっくりわかり、あと
はコメントでよりよくすごすためのアドバイスがもらえれば、
それで十分だと思うのだが。

 ランキング形式は、見えない人間には少々やっかいなのだ。
牡羊座から月順に読んでくれれば、蟹座の僕は、双子座まで鼻
歌まじりで渋茶をすすっていられるし、獅子座になったら煎餅
をバリバリと音をたてて食べたって構わない。ところがランキ
ングだと、順位は当然毎日変わるから、いつ読まれるかわから
ない蟹座を聞き逃さないために、コーナーの最初からときには
最後まで、ずっと気を抜くわけにいかない。そして、ほかの星
座のコメントまで集中して聞いてしまった結果、いったい今日
僕は、サンゴのアクセサリーを身につけるべきなのか、フルー
ツパフェを食べるべきなのか、混乱してしまうこともしばしば
なのである。

 しかも『めざまし〜』の場合、各星座のコメントが具体的で
詳しいのはいいが、そのぶん読むのに時間がかかる。平日の同
番組には6時前(コーナー名は異なる)、7時前、8時前の3回
星占いコーナーがあるけれど、それぞれ5つ、8つ、6つの星
座しか読んでもらえない。したがって、一番多く読んでくれる
7時前の回を見ても、自分の星座が読まれる確率は3分の2、
つまり3日に1度は運勢がわからないことになる。

 こんな日は、1時間待って8時前の回をもう一度チェックせ
ざるをえないわけだが、その苦労も必ずしも報われない。読ま
れる星座の数は、7時前と合わせて8+6=14、必ず毎回読む
ことになっている1位と12位の重複を差し引くとピッタリ12。
すなわち、振り分け方がうまければ、2回で12星座をすべて
音声でも紹介できる計算になる。しかし、歴代の女子アナの皆
さんは、そんなことに頓着しない。1位と12位意外に少なく
とも1つ、たいてい2つ、多いときは3つの星座をダブって読む。
それはとりもなおさず、少なくとも1つ、たいてい2つ、多い
ときは3つの星座の運勢が、読まれずに残るということだ。

 よくあるのだ……7時前にスキップされた2位こそが蟹座だと、
ほかの星座の順位から推測し、期待して迎えた8時前、またし
ても1位の次に3位が読まれてしまうことが。そのときの落胆
と怒りは、カキフライと間違えて軽く齧ってしまったレモンを
皿のワキにのけておいたのに、最後にカキもキャベツも食べ終
えたことを確かめようと動かした箸がそれに触れ、「あ、まだカ
キが……」と再び口に入れてしまったときの落胆と怒りにも匹
敵する。

 ちなみに、がんばって早起きし、6時前の回までチェックし
たとしても、結局蟹座が一度も読まれないことがあるのは調査
済みだ。結論は、『めざましテレビ』を、見えない人間があてに
してはいけない、ということになる。

 そこで2つめの番組、千葉テレビ『朝まるJUST』の出番だ。
実のところ、千葉テレビの電波は、世田谷のわが家までまとも
に届いてはいない。ただ『朝まる〜』は、冒頭の6時半から7
時まで、うちでも見られるTVKこと神奈川テレビでも放映し
ていた。番組全体では2回あるらしい星占いコーナーの1回めが、
その後半に置かれていたのである。

 このコーナーはかつて、『藤森さんの星占い』と呼ばれていた。
藤森緑さんが占っていたからだが、有機栽培の野菜に生産者の
名前が冠されているのと一緒で、まずそれだけで安心感、親近
感が持てた。


 藤森さんのコメントは、運勢があまりよくない日でも、基本
的にポジティブ。ラッキーポイントは奇抜で面白かった……奇
抜すぎてどう活用していいかわからないものも多かったが。

 画面には恋愛運、仕事運など項目ごとに◎○△×が表示され
ていたようで、そのうち総合運が◎のときは、「蟹座のあなたは
ラッキーデイ」と声でも知らせてくれた。ラッキー星座は毎日
3つくらいあり、8日ごとに2日連続で順番が回ってくるとい
うのが基本パターンだった。だから、蟹座のラッキーデイと予
想される日には見て気分よくフトンから起き出し、それ以外の
日はあえて見ないという裏ワザも使えた。

 そんなこんなでかなりお気に入りだったこのコーナーが、一
昨年だったか突然ランキング形式に変わった。担当も藤森さん
でなくなったのは明らかで、コメントには妙に説教めいたもの
が増えた。


 僕にとっては、コーナーの魅力がガタ落ちしたことはいうま
でもない。ただ、短いコメントをさっさと読んでいくだけなので、
全部聞いても大して時間はかからなかったし、その日の運勢が
上位か下位か、つまりいいほうか悪いほうかは確実にわかった
ので、それなりに重宝していた。

 しかし4月1日、コーナーどころか、『朝まるJUST』とい
う番組自体が、終了してしまったのである。

 そうなると、頼みの綱は3つめの番組、テレビ朝日『やじう
まテレビ』である。

 簡潔だが具体的でわかりやすいコメントを、月順に淡々と読
んでいき、最後にその日一番ラッキーな星座を教えてくれると
いうシンプルなスタイル。前身の『やじうまプラス』から現在
の番組に変わったとき、コーナーの時間が後ろにずれ、『めざま
し〜』の8時前をチェックしなければならない日は、途中で
チャンネルの切り替えが必要となった。しかし、間違いなく4
番めに読んでくれる蟹座を聞いてから変えれば悠々間に合うので、
大きな問題ではなかった。『朝まる〜』がランキング形式に堕落
してからは、正統派のまさに最後の砦となっていたのだ。

 ところが、『朝まる〜』の終了からわずか3日後の4月4日午
前7時57分、僕の耳に衝撃が飛び込んできた。『やじうま〜』
の占いコーナーは、『12星座ダービー』と名称を変え、ランキ
ング形式になってしまったのである。

 しかしこうしてみると、先ほど「意味がわからない」と書い
たランキング形式には、やっぱり何か視聴者を引きつけるもの
があるのかもしれない。さすがにディレクターの自己満足のた
めだけなら、このように正統派がことごとくランキング形式に
鞍替えすることはない気もする。

 だから、もし『やじうま〜』がただ星占いをランキング化し
たというだけなら、この文の最初に使った「裏切りとも言える」
という表現は、やや言いすぎだろう。でも、『やじうま〜』の
「変質」は、それにとどまらなかった。

 『やじうま〜』の「うま」からきて『12星座ダービー』、そ
れで実際、コーナーの最初に、競馬のアニメとおぼしきものが
つくようになったのである。ランキング上位の4星座がたぶん
ジョッキーとなり、4頭がコケたり、ニンジンを食べてパワー
アップしたりといった茶番を繰り広げた末、1位4位が決定する。
といっても、順位は文字通り「星」によって定められているわ
けだから、これぞ「できレース」だ。

こうしたアニメは、真摯に今日の運勢を知りたいと願ってい
る者にとっては、むろんまったく無意味である。でも、もしか
したら映像がそれはそれは面白くて、お出かけ前や家事の合間
の一服の清涼剤となるのかもしれないから、それについても文
句はつけない。

 問題は、アニメにかなりの時間が割かれた結果、すべての星
座のコメントを読んでくれなくなったことだ。読み方のパター
ンは徐々に固まり、現在は、順位はすべて紹介するけれど、コ
メントは8星座だけ読む。つまり、自分の星座が読まれる確立は、
『めざまし〜』の7時前と同様3分の2、3日に1度は今日を
生きぬくための指針が得られないわけである。しかも、読まれ
るコメントも、かつてに比べ非常に素っ気無く、不親切なもの
になった。

 ここまで書けば、頼みの綱だった『やじうま〜』の変質が、
見えない僕には「裏切り」とも感じられた理由がわかっていた
だけただろう。いったい今日一日、僕は何を頼りに生きていけ
ばいいのだろうか。

 もちろん、調べようと思えば、星占いのサイトなんてネット
上に山ほどあることは、重々承知している。ただ僕は、わざわ
ざネットでチェックするほど、星占いを好きなわけでも、気に
しているわけでも、ましてや信じているわけでもないのである。
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